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紫式子日記

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『イッツ・オンリー・トーク』絲山秋子


イッツ・オンリー・トーク
イッツ・オンリー・トーク



なんか友達になれそう、絲山秋子。

『沖で待つ』を読んだ時点では、男友達とのサバけた関係に共感はしていたけれど、作品自体があんまし好きじゃなかったからな。



表題作と『第七障害』を収録。

どちらもカッチリした文体で、日々を淡々とつづる。

読み手も主人公も気づかぬうちに主人公に内面的な変化が訪れていたりするけれど、

それは淡々とした物語にとりあえずエンドマークを打つための言い訳に見える。

主食は「淡々とした語り」なのでは。

イッツ・オンリー・トーク、まさに。



んー、何なんだ?

人物が魅力的なわけでも、ストーリーが微笑ましかったわけでも、何か気に入ったセリフがあったわけでもないのに好きだと思えたぞ。

やっぱり文体かな。

心温まる情景でも、簡潔に切り分けている、その感じ。

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『肩ごしの恋人』唯川恵


肩ごしの恋人
肩ごしの恋人



「男を信用していない」自立しきった女・萌と、「男にちやほやされなければ女である価値がない」ぶりっ子・るり子のコンビが主人公。

この2人、正反対の性格に見えるのだろうけれど、実は女性がみんな持ってる二面性の人格化だと思う。

比率はどうあれ、みんなどこかしら萌っぽいところがあるし、るり子っぽいところもあるんじゃなかろうか。

だから、萌の意見とるり子の意見、両方7割同意できて、3割反発を感じる

そういうところ、私見っていうか私情といちいち向き合わなきゃいけなくて、却って読みにくかったりしたんだけど。



そして(これはフィクションならではのパーソナリティーなんだけど、)萌もるり子もそれぞれに「サバけて」いる。

方向性は違えど、互いの主義主張がはっきりしていて、それを実践している。

萌などは矛盾を感じてもいるけれど、それすらもきちんと見つめている。

仕事を辞めるという行動で、最終的にはその矛盾を解消するし。

るり子も指摘されて自分の「主義」の浅はかさを知るけれど、それが人間的な円熟につながっていく。



表面的な部分は古典的かもしれないけれど、その根源となっている2人の思考は、ラジカルで痛快。

女の子は楽しめると思う。

男の子は、怖いかも。

ただ、2人の思考プロセスの説明がいちいち長く、精神的なステップアップもわかりやすすぎて露骨かなー、という感想。

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『東京湾景』吉田修一


東京湾景
東京湾景


なんか……

「え、これ吉田修一!?」

って感じなんだけど、私なんかは。

なんたって、ディテール細かすぎ

この人の他の作品て、こんなに地名とか風景描写とか明確だったっけか。

これはやっぱりアレか、自身の経験に基づいているからか。



とはいえ「吉田修一」ってのを手で隠して読めば、けっこうスキなタイプの作品でした。

過去の恋に傷ついていて、出会い系サイトで出会った2人が、本気の恋を始める勇気を持てないままに本気になり、自分たちの感情に戸惑っていく……というおはなし。

やっぱこういう「伸るか反るか!?」「行っとくかやめとくか!??」みたいなもどかしい駆け引きを言葉にしてくれるから、小説ってありがたいです。

終盤の

「信じようとは思うのに、なかなかできないっていうか……」

という亮介の台詞なんか、みんな思ってる。

当然のように思ってる。

でも、当然すぎるし口に出したら元も子もないしで、思ってないことにしている。

逆に、それを言えちゃう仲になった、亮介と美緒を羨ましく思えます。



あと好きなのは、これも亮介の台詞で

「だから、好きは好き。……いろいろないよ」

物語をすべて読みきってからこの台詞を見返したら、

「そうか、そういうことなのか」

と妙に腑に落ちて、またなんだか気分があったかくなりました。

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『だれかのいとしいひと』角田光代


だれかのいとしいひと
だれかのいとしいひと



角田光代の小説って、ポラロイド写真みたいだと思う。



画質はぼんやりとしていて、全体として不鮮明な印象なんだけど、それゆえ対象の本質みたいなものが写されてる。

「見えたつもり」になって、実のところその対象を見失ってる みたいな感覚は、角田光代作品には、ない。



ふと湧き上がってすぐに消えてしまうような感情が、その瞬間を逃すことなく捕らえられている。

普通のフィルムだったら、現像に出すときには何を撮ったか忘れてしまうと思うのだけれど、角田光代はその瞬間に印画する。



中には、

「それ言っちゃおしまいだよ!」

みたいな、元も子もないものも、ある。

けれど、角田光代がそれを口に出して言ってくれたおかげで、気が楽になる場合がほとんど。



彼女曰く、純粋に疑問から出発して創作しているらしいんで。

他意とかないんで。

そういうところ、憎めなくって憎らしいよなぁ、なんて思うのです。



文庫版、解説が枡野浩一なのも嬉しい。

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『うつくしい子ども』石田衣良


うつくしい子ども
うつくしい子ども



石田衣良は恋愛小説から入ったわたくし、

「あれー、石田衣良ってこういうの書くんだー」

という印象。



読みやすい文体は確かに彼のものですね。

正味2〜3時間で一気に読めました。

ただ、オリジナリティをあまり感じないというか。

「夜の王子」を殺さねばいけないと思い詰めている場面は、田口ランディ『アンテナ』で主人公が妹を殺さねばいけないと考えているところとダブるし、比喩の使い方は村上春樹っぽい。

上手いこと言うとは思いましたけれどね。

やるせなさの描写で、

「それがどんな気持ちだったか、想像してほしい。

 それを百倍にするとぼくの気持ちだ。」


とか、

「みんな、なにもない振りをするのが、とても上手なんだ。」

とか。



あとは何と言っても、この人ならではの視線のナナメっぷりだなー。

シビれますね!!

そもそもが《少年犯罪の犯人の家族》という、ほとんど誰も触れない《第二の被害者》を主人公にしているし、マスコミ側からの視線も交差する。

加えて「少年犯罪」自体への目線ね。

そのテの犯罪が起こるたび家庭環境のせいだの、地域社会のせいだのという言説が流れるけれど、それをさりげなく、だけど的確に批判する。

まさに主人公がしているとおり、自転車で風を切って、風景が流れるのを見ているような感触で。

うん、日本の政治家はもっと石田衣良のハナシを聞いた方が良いよ。

現総理なんか、髪型も似てるし、ねぇ。。。

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