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紫式子日記

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『ブレンダンとケルズの秘密』自分なり読解

『ブレンダンとケルズの秘密』公式サイト

Amazon Prime配信


前の記事で書いた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』と同じ監督&スタジオの作品です。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は2014年の、『ブレンダンとケルズの秘密』は2009年の作品です。
日本公開は『ソング・オブ・〜』の方が先で、その反響を受けての『ブレンダン〜』公開だったみたいです。

装飾写本やクリムト、カイ・ニールセンらの作品、アール・ヌーヴォー絵画のような背景画。
それらが動き、それら美術作品の世界に飛び込んだかのようなアニメーションが見事です。
こんな表現手法があったんだ! とびっくりします。
が、今回もそれらについては他所におまかせするとして、ここでは文明と自然のお話としての整理メモを。

『ソング・オブ・〜』と同じように文明と自然の関わり、調和のお話ですが、こちらの方が要素や物語の構成がすっきりしていて、観ながらリアルタイムで読み取って楽しめました。

主人公の少年、ブレンダンが『ケルズの書』製作に携わる中で成長していく物語です。
『ケルズの書』は実在のケルト装飾写本で、アイルランドの国宝だそうです。

装飾写本 - Wikipedia
ケルズの書 - Wikipedia

ケルト装飾写本について、ちゃんとした説明はWikipediaを読んでいただければと思うのですが、この物語においては、キリスト教(文明)の書物を、ケルト古来(自然)のモチーフで彩ったもの、と捉えるとわかりやすいと思います。

ブレンダンの叔父、ケルアッハは、キリスト教の僧院長。
共同体の中で、キリスト教=文明の中心となっている人物です。

ケルアッハは教会を中心にした町の周りに砦を作り、バイキングの襲来に備えています。
(少し『もののけ姫』のエボシ様を彷彿とさせます。)
力強く民衆を守護する一方で、甥のブレンダンの行動を、かなり厳しく制限しています。
父性/文明のポジティブな面とネガティブな面、両方を象徴していると言えそうです。

バイキングに襲われた島から、装飾写本製作の役割を担う修道士(装飾師)、エイダンが疎開してきます。
エイダンは、製作中の美しい装飾写本「聖なる書」(のちの『ケルズの書』)を携えていました。
エイダンも修道士ですが、ペットの白猫を連れていたり、写字室を円座にしようとしたりして(※)、ケルアッハよりもかなり自由主義的、文明と自然とのバランスの大切さを理解しているように見えます。
(※誰かをトップとする唯一神的な配置ではなく、皆が平等であるとする配置。ケルアッハはエイダンの席替えをやめさせます。)

エイダンはブレンダンを「聖なる書」製作に協力するよう誘います。
ケルアッハはそれを良く思わず、ブレンダンを、写字室やエイダンから遠ざけようとします。

ブレンダンはそれでも、人生で初めてケルアッハに反抗します(父権の支配からの卒業)。
ブレンダンはケルアッハの目を盗み、エイダンから頼まれたインク原料の木の実を取りに、禁止された砦の外、森に出かけます。
(エイダンの猫が同行してくれます。『ソング・オブ〜』の犬のクー同様、ペットは人間社会と自然界の橋渡しとして描かれています。)

ブレンダンは森の中で、少女の姿をした森の主、白狼の妖精・アシュリンに出会います。
森の中で迷ったブレンダンを案内し、野生動物や虫から守りながら、ブレンダンの目的を達成させるアシュリン。
2人は互いに友情を抱きます。

森の中にはクロム・クルアハ(アイルランドの戦いと死と太陽の神だそうです)の洞窟があります。
怖いもの知らずのアシュリンもその場所でだけは怯え、クロム・クルアハの名前すら呼ぶまいとします。
クロム・クルアハは迷信だとケルアッハから教わっていたブレンダンは、全く警戒せずに近寄ってしまい、闇の枝のようなクロム・クルアハの力に襲われます。
アシュリンは人類に恵みをもたらす自然のポジティブな面、クロム・クルアハは災害のような破壊的エネルギー、自然のネガティブな面をそれぞれ象徴していそうです。

木の実を採取する課題を遂げたブレンダンに、エイダンは今度は「聖なる書」の描き手になるよう促します。
最も重要なキー・ロー(=キリスト)のページを描く重責に押しつぶされそうになるブレンダン。
ですが、インク原料の実を集めてくれるアシュリンや、森がもたらすインスピレーションが、彼を励まします。

エイダンは、緻密な装飾写本の細部を描く方法をブレンダンに伝授しようとします。
それはクリスタル(拡大鏡)を使うことなのですが、エイダンはそれを紛失してしまっていました。
クリスタル=クロム・クルアハの目であることを知るブレンダン。
クリスタルを手に入れることを決意し、ケルアッハの妨害もアシュリンの協力で克服します。

クロム・クルアハの洞窟の前で衰弱しながらも、ブレンダンが本を完成させるのに協力したいと、彼が洞窟に入る手助けをするアシュリン。
洞窟の中には深い湖(?)があり、そこに落ちたブレンダンは、巨大なウミヘビのような姿のクロム・クルアハに襲われます。
チョーク(=教育、学問、科学的知識)の線でクロム・クルアハを閉じ込め、「目」を奪うことに成功するブレンダン。

洞窟から出ると、アシュリンの姿は見えなくなっていました。
代わりに、ブレンダンに森から出る道を示す、白い花の道が開けていました。
(たぶんすずらんだと思います……が、はっきりとはわかりません。
 すずらんはアイルランドで妖精の遊び場とされているそうです。)

ブレンダンがクリスタルを使って描いた装飾写本の見事さは皆を感嘆させますが、砦はバイキングに襲撃されてしまいます。
「聖なる書」を持って森に逃げ込むエイダンとブレンダン。
途中バイキングに襲われますが、そのバイキングを狼たちが襲い、狼たちを統べる白狼が2人を守ります。

白狼がアシュリンであると気づくブレンダン。
しかし、彼女はもう少女の姿で現れることはありません。
(『魔女の宅急便』でジジの声が聞こえなくなってしまうくだりに似ています。)
文明によって人間は自然の害となる部分(=クロム・クルアハ)に打ち勝ちますが、自然の益となる部分からも遠のいてしまうということでしょうか。

山林を抜け、森のほとり=人間社会と自然界の境界に小屋を建て、「聖なる書」の続きを描くブレンダンとエイダン。
数年の時を経て、「聖なる書」はとうとう完成します。
バイキングが自然も文明も破壊する闇の時代に、人々に光をもたらす希望の書。
もうアシュリンと言葉を交わすことはできませんが、彼女と過ごした森の躍動するエネルギーは、書物にいきいきとした輝きを与えています。

すっかり大人の男性に成長したブレンダン。
エイダンに促され、完成した写本を携えて、育った僧院を目指します。
森の中を、白狼の姿のアシュリンが再び導いてくれます。

バイキングに敗北し、民衆を守れなかった=父性に挫折したケルアッハ。
ただブレンダンを失った悲しみだけが残され、すっかり老いて衰弱してしまっていました。
ブレンダンはケルアッハに、完成した書と自分が成長した姿を見せ、2人は和解します。



この本面白そう

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