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紫式子日記

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エルンスト・バルラハ展


ドイツ・表現主義の彫刻家 エルンスト・バルラハ展





東京藝術大学美術館にて。

初めて入った。



エルンスト・バルラハは今まで知らなかった芸術家。

駅で広告を見て

「これはヤバい、行かなきゃ!」

と思い立って観に行ったのです。



展示会場はバルラハの作風に合わせてか、静謐な雰囲気が漂っていました。

入ってすぐのところに『戦う天使』というミカエル像があります。

ミカエルがオオカミの上に静かに立ち、槍を天に向けて抱えている像です。

この種の像は「理性が欲望を制する」ことを象徴するとして、ドイツの教育機関にはしばしば置かれているものなのだそう。

ただ、一般的にはミカエルが制しているのはドラゴンで、槍もそのドラゴンを刺している、アグレッシブなものなのだとのこと。

それに対して、バルラハの『戦う天使』は随分と落ち着いた雰囲気です。

第一次大戦を経て、平和主義を掲げるに至ったバルラハならではの作風なのです。




展示は、時代順に7つのパートに分かれています。



バルラハは後に木彫を中心とする芸術家ですが、初期(パート?〜?)ではペン画・鉛筆画が多く見られます。

アール・ヌーヴォーの影響を受けているそれらの絵は、悪くはないのですが「説得力」を欠いているように見えました。

本当に描きたいもの・訴えたいことは別のところにあるのではないか、と。

「絵として素晴らしい」という技術的な面より、対象に対する視線の温かさの方が印象強かったです。

また、「絵」にすることを目標にしている作品より、後で立体などにするための「素描」の方が訴えるものを感じました。



中期(パート?・?)は、バルラハのロシア旅行に始まります。

現地の道祖神〔みたいなもの。名前を忘れました・・・〕に感銘を受け、そのゆるやかな曲線・どっしりした量感を作品に取り入れはじめます。

他に類を見ないバルラハ「らしさ」はここで形づくられます。

その独特な造形を用いた木版画も制作しています。

若い頃の作品と違い、この時代の作品からは描かれた人間のリアルな感情が伝わってきます。



後期(パート?・?)は、第一次・第二次大戦をまたぎます。

開戦したての頃は愛国的だった芸術家たちでしたが、戦況が長引くにつれ、戦争への疑問を抱き始めます。

そして第一次大戦が終結する頃には、国内の作品のほとんどは平和主義的なものになっていました。

バルラハもそのような変遷を遂げたひとりだったのです。

冒頭の『戦う天使』にも、ここで培われた精神が反映されているのです。



平和主義の思想に伴い、バルラハは禅・老荘思想などの東洋思想にも造詣を深めていきます。

晩年の作品はキリスト教の題材をモチーフとしつつも、それらの思想が取り込まれています。

重みのある木彫像はゴシック建築に合っていますが、京都の寺院にもありそうだな、と思いました。

こうして技術面・思想面の双方で、バルラハの作風は完成に至るのです。



ですがバルラハは、その晩年を平穏に暮らせたわけではありませんでした。

ヒットラー政権下で現代芸術は「頽廃芸術」の烙印を捺され、バルラハの作品もそのひとつに数えられました。

平和主義思想を反映した作風は、右翼的な人々の反感をもかったようです。

こうして自由な芸術活動を禁じられた中で、バルラハは不遇の死を遂げました。

ヒットラーはどのくらいの素晴らしい芸術を殺したのだろう、と思うと気が遠くなりました。

バルラハに関しては、作風が円熟した後だったこと、幸運にも作品を保護する人物がいたということが、せめてもの幸いだったのでしょうか。



2006年4月12日(水)-5月28日(日)

月曜休館

午前10時〜午後5時(入館は閉館の30分前まで

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