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紫式子日記

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「マグナムが撮った東京」展


家で『エロマンガ・スタディーズ』を読んでから、

ファミマで『ブルータス』最新号「西洋美術を100%楽しむ方法。」を買い、

『ゴシックとは何か』を読みつつ電車に揺られ、

東京都写真美術館「マグナムが撮った東京」展を観てまいりました。

私は何になりたいのかよくわかりませんが、なんか卒論からこっち吹っ切れたというか、好きなことを好きなだけ追う度胸が付きました。



「マグナム」ってのは

「熱いのをブチこんでくれよ(´Д`*;)」

じゃありませんで、フォトジャーナリスト集団の名称。

そのメンバー(ほとんどが欧米人なのですが)が来日した際に撮った

「東京」の写真を年代順に展示する、という催し。



「異文化から見た『TOKYO』」という観点でももちろん面白いんですが、

私の目当ては創立メンバーの一人 アンリ・カルティエ=ブレッソン

森村泰昌の指導者アーネスト・サトウが、彼と懇意だったとかで、よく授業の教材に取り上げたんだそうです。

そこで森村は「モダニズムの美学を学んだ」として、再三カルティエ=ブレッソンを扱っているのです。

ちょうど『芸術新潮』でそれを特集した99年6月号「アーネスト・サトウの写真教室」を古本屋で手に入れたばっかりだったってのもあります。

だから、マ、その追体験ですわね。



森村がアーネストから教わった「モダニズムの美学」とは、「骨がある」こと。


20世紀前半の芸術って、

建築につけ絵画につけ写真につけ、

「骨組み」がしっかりしていて、しかもはっきりとわかりやすい、

というのが特徴だそうで。

モンドリアンなんか「骨」だけですしね。

森村曰く、それが「モダニズムの美学」なんだと。



そして「マグナム」ら、1950年代の報道写真のすごいところは、

撮るべき「ニュース」を撮りながら、

その「モダニズムの美学」も守っている
ところ。

そういえば、ピューリッツァー賞の入賞作品なんかも

「美しい」って思わされちゃいますもんね。



で、そう思って観ると、確かに「マグナム」の写真には「骨がある」

「リズムがある」と言い換えてもいいでしょうか、

同じイメージの反復、相似形、あるいはその流れを破るアクセント。

誰のか忘れちゃいましたが、

9本くらい蛇の目傘が並んで立っている中に、

右から2番目に、1本だけ洋傘が混じっている。

その感じとか。

デパートのショーケースの前で、宿無しの女性が眠っている。

その寝姿や、周りの物の配置が、

偶然にもショーケースの中身と呼応している。

そういう「偶然の一致」なんかを捉える技術。



こういうのって、たぶん絵画でやったらウザいんですよ。

わざとらしくて。

写真だから許される。

細部やディテールは、やっぱり違って写るし。



なるほど、これがモダニズムの美学か、と一人感動。

しかしその中にあっても、

カルティエ=ブレッソンは別格上位の上手さですね。



市川團十郎葬儀の写真なのですが、喪服で真っ黒な画面に、

4人の女性の顔が白く浮かび上がっているんですよ。

彼女たちの配置はひし形

そのひし形の中央に「告別式」の立て札の文字が、

やはり白く浮かび上がっている。

しかも彼女たちはそれぞれ違う方向を向いていて、

図らずも逆時計回りに、円を描いて歩いているように見える。

また表情が一人一人違う。

右上から逆時計回りに進むにしたがって、

無表情→目を閉じる→ハンカチで片目を押さえる→ハンカチに顔をうずめる

……と、悲しみの表し方が大きくなる。

このテンポ、このリズム、この進行。

さすが「決定的瞬間」の人。



ただ、この「美学」が守られるのも70年代まで。

80年代以降の写真は、

クローズアップや色彩の多様が見られ、

恐らく映画の影響を受けている。



「モダニズムの美学」を発現するに特権的だった写真も、

いまやその独自性を発揮させた美学を失っている。

確かに、もはやポストモダンなんだけどさ。

美は世につれ。

やっぱ「ポストモダニズムの美学」は、

メディアミックスから生まれるのでしょーか、ね。

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