2005/11/20 Category : Books 『命』柳美里 命読みおわりました、『命 四部作』。電車の中で読んで、人がいるのに何度も泣きました。どうすればここまで人を愛せるのでしょう?血よりも濃い、柳美里と東由多加の関係は、どんな男女の、それどころかどんな人間どうしの関係をも超越しているように思えます。柳氏の妊娠と東氏の癌とがほぼ同時に発覚するところから、東氏の臨終・葬儀とその後までが、残酷なまでに克明に、そしてそれゆえ、激情を刻み込んで、描かれていきます。難航する胎児の父親との交渉、それに伴う妹との決別などのトラブルに加え、レイプ強盗による被害など、「ナゼワタシダケガコンナメニ!」と柳氏に叫ばせる、不遇の連続。何より、ペースを緩めることなく、むしろ段々に早くなっていく癌の進行。それら非情な現実が事細かに綴られていく中に、かつての東氏とのエピソードが巧みに織り込まれ、物語は縦横に厚みを持っていきます。取り上げるべき箇所は多いですが、敢えて選ぶと、東氏の葬儀での柳氏の弔辞、そして第4幕『声』を締めくくる言葉でしょう。 「あなたを失った私は不幸です。 けれど、役者を目指していた十代のわたしに、不幸から逃げるな、不幸のなかに身を置いて、書くことによって、その不幸を直視しろ、といったのはあなたです。 もう現実のなかであなたと逢うことはできませんが、さよならはいいません。 書くことによって、あなたと再会できると、わたしは信じています。」(第4幕『声』文庫版185ページ)「わたしは東由多加の声だけを頼りに歩いてきました オルフェウスのように命の糸をもう一度結び合わせてくださいとは祈りません もう一度だけ 東由多加とゆっくり話をしたいです ゆっくりが難しかったら 一時間でもいいです 東由多加と話をさせてください 声を聞きたいんです お願いします 東由多加の声を聞かせてください」(第4幕『声』文庫版353ページ)柳氏は今でも、東氏の声に耳を澄ませながら創作をしているんだそうです。(東氏によるコメントを待っている、『交換日記』という作品もあります。)死して猶共に生きていく、その絆の深さは恐らく私の思いも及ばぬ次元のもので……。今は唯、言葉にならない、その途方も無い深遠さと親密さに圧倒されて、涙を流すことしかできない私がいます。占いによると、柳氏と東氏は、前世でも、その前の世でも、ずっとずっと肉親だったんだそうです。血が繋がっていなかったのは、今世だけだと。そして、来世でも姉と弟として生まれ変わる、と告げられたそうです。私個人は生まれ変わりを信じませんが、この二人の間になら、そういう「縁」があるのだろうと信じられます。魂生(いきる)―命四部作〈第3幕〉声―命四部作〈第4幕〉交換日記 [0回]PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword