2021/03/07 Category : Movies 映画『ヤクザと家族 TheFamily』がとても良かった 公開1ヶ月くらい経ってやっと行けました。やっとこ、今年の映画館初めでございます。とても良かったのでブログにも書き付けておきます。映画『ヤクザと家族TheFamily』公式サイト1999年から2019年までの20年間を、田舎のチンピラからヤクザになった青年の人生を主題に、周囲の人々と社会の変遷を織り交ぜながら描いているんですけど、「個人の人生」と「時代の変化」が組み合わさっている立体感、奥行きの「圧」がすごい。圧倒されました。あの、工業地帯の風景(静岡の沼津とか富士の辺りらしいです)、煙がもくもく出てる工場群が空撮されてるカットが何度も入るのがすごく良かったな……。綾野剛さんのことは、年末年始のドラマ『MIU404』イッキ見再放送で好きになって、主演作ということもあって観に行ったのですが、雨に濡れて捨てられた仔犬みたいな目をした顔が何回もどアップになるし、チンピラヤンキークソガキ時代からヤクザ風吹かせる壮年期、14年服役して出てきた中年時代まで演じられていて、綾野剛てんこ盛りハッピーセットみたいな感じでしたね……いえ、お話自体は全くハッピーとかそういうんではないのですが……。他のキャスティングもめちゃくちゃ良くって、さすが映画だなと。 組長役の舘ひろし。刑事バディものをジャンルとして打ち立てた人が、新世代刑事バディものを好演した綾野剛とヤクザの親子分役で共演ってなんだか面白いですね。綾野剛演じる主人公の賢治が出所してきた後の、老いて衰えた姿の落差、観客もショックを受ける見事な演じ分けでした。あれ辛いよね。私も祖父母がシャキッと働いてた頃から、寝たきりになって亡くなるまでを見たりしているので自分ごとのようだった……。ヒロイン由香役の尾野真千子。日本的な「重い湿度」をまとわれてる方なので、濡れた仔犬の目をした綾野剛(役名で言え)にほだされて情を掛けちゃう役どころ、すごーーーーくしっくり来ていた……。由香と賢治が、最初反目しあってて言い合いばっかりなのも、付き合ってない男女萌え&喧嘩ップル好きにはたまりませんでした。出会いのシーン、手に刺さったトゲを抜いてくれただけで恋する目になっちゃう綾野剛(役名で言えってば)も良かったよね。あぁ、あのシーンは心に刺さったトゲも抜いてもらえた、そういうメタファーだったのか。翼(主人公たちがお世話になってる韓国料理屋の息子)役の磯村勇斗。意識して見たことはなかったんですが、とてもお芝居がお上手でらっしゃるんですね……。少年時代の可愛さを残したベビーフェイスに、目の表情の演じ分けが印象的でした。以下ネタバレですどのシーンもキャラクターたちの感情の機微がよく描かれていて好きなんだけど、やっぱりラストが最高だったな……。翼と彩(賢治と由香の娘)が言葉を交わすシーン。「あんたヤクザ?」「違ぇよ 今どきヤクザなんて稼げねぇだろ」時代さえ違えばヤクザになりたかったのかな? なんて思わせる、賢治への憧れをにじませた台詞の後。「お父さんってどんな人だったの」尋ねる彩に、翼は振り向いて、目をうるませる。「……少し、話そうか」と返すまでの長い間。翼は誰かと、賢治のことを弔いたかったのだと思うのですよね。お葬式のときって、あの人はああだったねこんなことあったねって弔問客同士が故人を偲ぶじゃないですか。翼は賢治を慕っていたけど、葬式も挙げられないし、そうやすやすと生前のことを語り合える相手もいない(母親の愛子さんとは何か話したかな)。何かを残す生き方をした訳でもないから「ケン兄」が生きていたことを記憶として残せるのは自分しかいない。発散できない「弔い」の気持ちがわだかまってたんだと思うんですね。そこに彩が現れた。天涯孤独だと思ってた賢治に血を分けた「家族」ができていたことも、翼は嬉しかっただろうし、賢治のことを語れる相手ができたのが、本当に本当に嬉しかったと思う。いっぱい気持ちの詰まった「少し、話そうか」でした。そうか、賢治の父親の葬式から始まって、父親になった賢治の「葬い」で終わる映画なんだな。すごいシーンだったし、このシーンによって1999年から描かれてきた「時代」の物語がこの先も続いていく、時空の拡がりを感じさせてものすごく良かったです。ありがとうございました。藤井道人監督。他の作品も観てみたいな。 [0回]PR