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紫式子日記

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『踏みはずす美術史』


踏みはずす美術史―私がモナ・リザになったわけ
踏みはずす美術史―私がモナ・リザになったわけ




森村泰昌は好きですね。

だっていい男なんだもん(爆) アタマも良いし!

名画の登場人物や、歴史的女優に扮したセルフポートレートを発表している男性アーティストです。

その扮装ってのが、メイクから衣装からセットまで抜かりなく原画を再現していて、またエッロぉ〜い仕事っぷりなんです。

だから作品である写真を観ていても充分楽しいのですが、こんな美術評論(と呼んで語弊は無いと思う)も発表してるんですね。

大阪出身で上方仕込みのユーモアセンスしてるから、やることも洒落てるけど、文がまた面白いんだw

てな訳で、視神経だけでなく、言語中枢でもモリムラ美学を楽しんでみた次第です。



5章構成で、各章では「オトナ」「見る」「上手」「アメリカ」「オリジナリティ」という、"美術"を堅苦しくしているキーワードをモリムラ流に「踏みはずし」、森村氏なりの美術の楽しみ方、ひいては私たち読者それぞれの美術の楽しみ方を指南してくれています。

学校での「美術」の授業にうんざりしていたアナタにも、アート好きなアナタにもおすすめ。

「太陽の塔」「(ゴッホの)自画像」など、具体的な作品へのアプローチから論が進められてるんで、好きな作品のところだけ抜き読みするのもアリかもしれない。

ちなみに私のお気に入りは第2章の「モナ・リザ」。

モナ・リザへの扮装を試み、そして果たした森村氏ならではの斬新な、そして慈愛に満ちた「モナ・リザ論」が展開されています。

また、レオナルド・ダ・ヴィンチ×モナ・リザの関係を語ったのと似た手法で語られる、第4章のウォーホル×マリリン・モンローの関連も興味深かったです。



しかし、森村泰昌は好きですね。

彼の作品の中で私がいちばん好きなのは、ダダイズムの雄・デュシャンに扮した森村氏の写真です。

横浜美術館のデュシャン展で観たんですけどね。

それもただのデュシャンではなく……。

デュシャンって人は、パフォーマンスの一環? として、ローズ・セラヴィっていう架空の女性に扮していた時期があったんですね。

その「ローズ・セラヴィに扮しているデュシャン」に扮して撮られた作品なんです。

だから、その作品において森村氏は、ローズ・セラヴィという「女性」にも扮しているし、デュシャンという「男性」にも扮しているんです。

森村氏の作品では(女性に扮することがほとんどというのもあり)、こうやって男性/女性の境界が曖昧になる現象が多々、起こるんです。

それがすごく好きなんですよね。

で、今回この本の中でこんな一説を見つけまして。



今日の状況は、だいぶ変わってきています。

現在、すでに西洋だけが中心であるような地球はなりたちません。

世界各地に住むさまざまなひとびとの多種多様な知恵によってでしか、地球は維持しえないという実感を、もうだれもが持ちはじめています。

また、美的対象として愛でられる存在を女性にのみ押しつける美学も、だんだん魅力が消えかかっています。

さらに、これまでは明快だった男と女、人間と他の生物、人間と機械、生と死の境界なども不明確になってきて、いわゆるヒューマニズムも無効化しつつあります。
(注:太字は紫崎)


なるほど、だから私はこの人のことが好きなんだな、と納得してしまった一節。

で、この後に多少荒治療な将来への希望的展望が語られるのですが、私が漠然と抱いていた世界観と、しっくり一致。

私は当分森村泰昌に着いていくことになりそうです。

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