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紫式子日記

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『ソラミミ』やまだないと


ソラミミ
ソラミミ




ナイトー先生、出番ですよ。

釣り目で眼鏡で、西荻窪在住のまんが家「ナイトートオル」は、やまだないと作品ではおなじみのキャラクター。

ファンの間ではやまだないとの化身として認知されている。

そんなナイトー先生主体の短編ばかりが12本集められた単行本。



ナイトー先生が登場する作品は『西荻夫婦』『ポルノ青春狂走曲』等いくつかあるけれど、どれも「周りの人から見た」ナイトー先生で、ナイトー先生自身の目線に立った作品〔集〕はこれが初めてなんじゃないかしら。



『かへおれ』という短編では、奥さんがナイトー先生に

「だけどあたしは許してあげるからね・・・ あんたのそのうしろめたさ・・・」

と言うシーンがある。

これが『西荻夫婦』だったら、恐らくナイトー先生のしょんぼりしたような、眉毛の下がった表情が描かれて終わるんだけど、『かへおれ』では

「カノジョのうれしいコトバとか・・・ それを・・・幸せだと信じられない」

というモノローグが入る。



“複雑な心境”と呼ばれるようなもの、そういうものがコトバに表されている。

だけれどコトバにしたところで複雑なものは複雑だから、やっぱりそのコトバは複雑で、矛盾を抱えている。

でも、だからこそ、コトバに出されて陳腐になるなんてことはなくて、かえって深み・渋み・切なさ、そんなものが後に残る。



やまだないとは元々上手い台詞を書くけれど、『ソラミミ』には特に「クる」コトバが多い気がする。


上にも引いた



「自分の為に なんてものをあんたがおしつけるのは

 誰の為にも生きていない自分のうしろめたさを薄める為でしょう?」

「だけどあたしは許してあげるからね・・・ あんたのそのうしろめたさ・・・」

『かへおれ』をはじめ、



「オレらってめんどくさいのにそういうの求めてるとこがある

 ほっといてといいながら

 ほっとかれることがいちばんコワイ」


『不機嫌猫』

など。

ナイトー先生がインタビューを受けるという設定の『津田沼』では



「聞いて欲しそうな顔をして

 聞かれるとへそを曲げるのは

 俺の嫌〜なとこで

 それゆえ漫画家なんて自意識過剰な仕事をしている」




と、ナイトー先生自身による「ナイトートオル論」が拝見できます。

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